
プラハから日帰りも可能!温泉と歴史が息づく町、カルロヴィ・ヴァリ
チェコ西部に位置するカルロヴィ・ヴァリは、温泉保養地として世界的に知られる美しい町。プラハからバスで約2時間とアクセスも良く、日帰り旅行の目的地としても人気です。中世から続く温泉文化、華麗な建築、自然に囲まれた静謐な風景が調和したこの地は、訪れる人々を穏やかな癒やしへと誘います。
歴史ある温泉の町で体験する“飲む”温泉療法

カルロヴィ・ヴァリは、チェコ西部の温泉保養地として14世紀から知られ、ヨーロッパ各地からの湯治客を魅了してきました。この町ならではの特徴が、“入る”のではなく“飲む”温泉療法。街の中心を流れるテプラー川沿いには「コロナーダ(回廊)」と呼ばれる屋根付きの飲泉所が点在し、散策しながら様々な泉源の温泉水を試すことができます。
専用の陶器製カップを手に取り、ゆっくりと口に含むことで、カルシウム・マグネシウム・硫酸塩・炭酸水素塩などのミネラルを体内に取り込めるとされています。温泉水はそれぞれ源泉によって温度や成分が異なり、内臓の不調や代謝促進に効果があると考えられています。
中でも圧巻なのが、ヴジーデルニー・コロナーダ(Vřídlo Colonnade)にある「ヴジードロ間欠泉」。毎分約2,000リットルもの熱水が10~12メートルの高さまで噴き上がる様子は迫力満点で、町のシンボル的存在です。館内には温泉成分により形成された石灰華の展示や、間欠泉を利用したスパプロダクト製造工程の見学エリアもあり、見どころ豊富です。
建築美に包まれる散策体験
カルロヴィ・ヴァリの魅力は、温泉だけにとどまりません。町を歩けば、19世紀から20世紀初頭の華やかな時代を反映した建築群が、まるで絵画のように連なります。バロックやアール・ヌーヴォー、ネオルネッサンス様式が融合する街並みは、ただ歩くだけでも心が躍る美しさ。
中でも代表的なのが、ムリーンスカー・コロナーダ(Mlýnská kolonáda)。カルロヴィ・ヴァリの中心部を流れるテプラー川沿いに位置し、1881年に建築家ヨゼフ・ゼィテク(Josef Zítek)によって設計されたネオルネッサンス様式の壮麗な回廊建築です。ゼィテクは、プラハの国民劇場の設計でも知られる建築家であり、この回廊も芸術的なディテールに満ちています。
全長132メートルの回廊には、124本の華麗な石柱が並び、その上部には「季節」や「芸術」などを象徴する12体の寓意彫刻が据えられ、まるで神殿のような厳かな雰囲気を醸し出しています。屋根付きの構造のため、雨の日でもゆったりと散策が楽しめ、写真映えするスポットとしても人気です。
回廊内には、以下の5つの源泉(プリシュテルナ)が湧き出しており、それぞれ微妙に異なる温度や成分を持っています:
ムリーン(Mill)温泉|約56℃。胃腸や肝臓疾患に効果があるとされる代表的な泉。
リベルニー(Liberté)温泉|比較的軽めの成分で飲みやすい。
ルドミラ(Ludmila)温泉|鉄分を含み、血行促進に効果あり。
ニーベルツィナ(Nibečina)温泉|やや硫黄の香りが特徴的。
ルズィチュカ(Rusalka)温泉|さっぱりした口当たりで初心者にも人気。
散策中には、街の名物である注ぎ口付きの専用陶器カップを片手に、各泉を少しずつ試して味や温度の違いを楽しむのが定番スタイルです。成分表示板には、それぞれの泉のミネラル構成と効能が記載されているため、体調や目的に応じて選ぶこともできます。
さらに、カルロヴィ・ヴァリの象徴ともいえるのが、老舗のグランドホテル・パップ(Grandhotel Pupp)。1701年に創業され、18世紀後半から徐々に現在の姿に整備されてきたこのホテルは、300年以上の歴史を誇ります。もともとは小さな家族経営の宿から始まり、19世紀末には大規模な拡張が行われ、現在のような華麗なネオバロック様式の外観が完成しました。
その格式とサービスの高さから、かつてはロシア皇帝ニコライ2世をはじめ、オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世、さらにはベートーヴェンやヨハン・シュトラウスといった音楽家や文化人たちも宿泊。まさにヨーロッパの上流階級に愛された由緒あるホテルです。
映画ファンにもおなじみの場所で、2006年公開の『007/カジノ・ロワイヤル』では、劇中の「モンテネグロの高級カジノホテル」として登場。外観だけでなく、豪華なロビーやシャンデリア輝くホールなど、映画に登場する印象的なシーンのロケ地として使われました。
現在も一般客が宿泊できるラグジュアリーホテルとして営業しており、クラシックな調度品に囲まれたスイートルーム、宮殿のような朝食ルーム、スパ施設、コンサートホールまで備えた空間は、まさに“歴史と現代が融合した非日常”を体験させてくれます。宿泊せずとも、館内のレストランやカフェ、バーを利用するだけでも十分その雰囲気を楽しめます。
町全体が建築の博物館のようなカルロヴィ・ヴァリでは、地図を片手にお気に入りの建築を探す散策も、旅の大きな楽しみのひとつです。
街を見渡す展望塔と自然の恵み
カルロヴィ・ヴァリの中心街から気軽にアクセスできる絶景スポットが、ディアナ展望塔(Rozhledna Diana)です。温泉街の東側に位置する帝国ホテル(Hotel Imperial)裏手のケーブルカー乗り場から、森林の中を3分ほど登るだけで到着でき、観光客から地元住民まで人気の高い憩いの場となっています。
標高約547メートルの丘に建つこの展望塔は、1914年に建設された高さ40メートルの石造タワー。階段またはエレベーターで上った展望デッキからは、赤い屋根が連なる旧市街、緑に包まれた山々、そして蛇行するテプラー川まで、カルロヴィ・ヴァリを一望するパノラマビューが広がります。春から秋はもちろん、冬には雪景色に染まった幻想的な町の姿を楽しむこともできます。
展望塔周辺は、スラヴコフの森(Slavkovský les)に連なる自然公園の入口にもなっており、整備されたハイキングコースが数本伸びています。初心者でも歩きやすいルートが多く、森林浴をしながらリスや野鳥といった小動物に出会えることも。所要時間30分~1時間程度のループコースもあるため、時間に余裕がある場合は、ぜひ展望塔だけでなくその周辺の森歩きも楽しみたいところです。
また、塔のふもとにはレストラン「ディアナ・レストラツェ(Restaurant Diana)」があり、地元料理や軽食、ビールなどを提供。森の中の開放的なテラス席は、観光と自然を満喫した後の休憩スポットとして最適です。さらに、小さな蝶の博物館や動物園(子鹿や山羊とふれあえるミニ動物園)も併設されており、ファミリーにも人気です。
温泉街の中心からほんの数分で到達できる非日常の自然空間——カルロヴィ・ヴァリを訪れたら、ぜひ展望塔と森の時間も旅程に加えてみてください。
映画とともに歩む文化の香り
カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭(Karlovy Vary International Film Festival, KVIFF)は、毎年7月に開催される中東欧最大級かつ世界的に権威のある映画祭のひとつ。1946年に創設された歴史あるこの映画祭は、チェコを代表する文化イベントであり、カンヌやベルリン、ヴェネチアと並ぶAクラス国際映画祭に分類されています。
映画祭期間中、町は一変して映画の都となり、世界中から集まった映画監督、俳優、批評家、愛好家たちで賑わいます。上映会は、カルロヴィ・ヴァリの近代建築を代表するホテル・テレサ(Hotel Thermal)を中心に、複数の劇場や特設会場で行われ、作品ジャンルも新作・独立系・ドキュメンタリー・学生映画など多岐にわたります。
トークイベントや舞台挨拶、オープンエア上映なども催され、街全体が映画の熱気に包まれます。レッドカーペットを歩くスターたちの姿も見られるなど、映画ファンにとってはたまらない体験となるでしょう。これまでにロバート・デ・ニーロ、ジュード・ロウ、ジョニー・デップ、シャロン・ストーンなど、世界的スターがゲストとして訪れています。
また、映画の文化的側面と深く結びついているのが、1701年創業の老舗ホテル「グランドホテル・パップ(Grandhotel Pupp)」。この豪奢なホテルは、映画祭の公式イベントやゲストの宿泊先としても利用される格式ある存在で、映画ファンにとっての“聖地”です。
特筆すべきは、ウェス・アンダーソン監督の名作『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年)のインスピレーション源とされていること。実際のロケ地ではないものの、ホテルの外観やクラシカルな内装、上流階級の社交の舞台となった歴史背景が、作品の世界観に大きな影響を与えたと言われています。
カルロヴィ・ヴァリは、温泉と建築だけでなく、芸術・映画の薫りに包まれた文化都市でもあります。映画祭期間中でなくても、街を歩けばいたるところにその名残と情熱を感じることができるでしょう。
温泉ワッフルとハーブ酒のお土産を忘れずに
カルロヴィ・ヴァリを訪れたら、忘れずに味わいたいのが名物の温泉ワッフル「オプラツキ(Oplatky)」。直径約19センチの丸くて薄いワッフル状のお菓子で、パリッと軽やかな食感と、ほんのり甘いバニラやシナモン、ヘーゼルナッツの風味が特徴です。19世紀から続く伝統的なレシピで作られており、温泉地ならではのヘルシースイーツとして地元民にも観光客にも親しまれています。
街のカフェや売店では、温かい状態で提供される焼きたてオプラツキを、飲泉用の温泉水と一緒に味わうのが定番のスタイル。さらに、個包装された土産用の缶入りセットも種類豊富で、ばらまき用のお土産としても人気です。
もうひとつの特産品が、地元で製造されているハーブリキュール「ベヘロフカ(Becherovka)」。1807年に薬剤師ヤン・ベヘルが胃薬として開発したもので、20種類以上のハーブとスパイスを使ったレシピは現在も門外不出。アルコール度数は38度前後で、ほのかな甘みと独特の苦味があり、食後酒やカクテルのベースとして親しまれています。
カルロヴィ・ヴァリ中心部には、ベヘロフカのミュージアム兼ショップ「Jan Becher Museum」もあり、製造の歴史やブランドの世界観を学びながら、試飲やボトル購入も可能。ミニボトルのギフトセットはスーツケースにも収まりやすく、おしゃれなお土産として喜ばれます。
そして旅の記念としてぜひ持ち帰りたいのが、温泉水を飲むための陶器製「飲泉カップ(pítko)」。細い注ぎ口がついた独特のデザインで、街中の飲泉所でも多くの人がこのカップを手に散策しています。お土産店ではカラフルなものからクラシカルなものまでバリエーション豊かに揃っており、実用的でありながら旅情も感じられる逸品です。
美味しさと伝統が詰まったカルロヴィ・ヴァリのお土産は、帰国後もこの温泉地の余韻を思い出させてくれるはずです。
カルロヴィ・ヴァリへのアクセス
プラハからのアクセス|バスが最も便利
カルロヴィ・ヴァリへは、首都プラハからのアクセスが最も一般的です。おすすめは長距離バスで、RegioJetやFlixBusなどの大手バス会社が、プラハ市内の「フローレンツ・バスターミナル(Florenc)」や、ヴァーツラフ・ハヴェル空港からも直行バスを頻繁に運行しています。
所要時間:約1時間30分~2時間
料金目安:170~410 CZK(約1,000~2,400円)
到着場所:カルロヴィ・ヴァリ市内中心のバスターミナル(Tržniceなど)
車内にはWi-Fiや電源がある便もあり、快適な移動が可能です。早めの予約で安くチケットを確保できます。
列車でのんびり移動も可能
鉄道でもカルロヴィ・ヴァリへ行くことができますが、バスより所要時間が長く、本数も限られています。
所要時間:約3時間
料金目安:340~700 CZK
経由地によっては乗り換えあり
鉄道ならではののんびりとした車窓風景を楽しみたい方にはおすすめですが、効率重視ならバスのほうが便利です。
空港からのアクセス|プラハ空港から直行バスあり
プラハのヴァーツラフ・ハヴェル空港(PRG)からは、カルロヴィ・ヴァリ行きの直行バスが出ており、飛行機到着後すぐに乗車可能です。
所要時間:約1時間30~1時間45分
料金:170~400 CZK
運行会社:FlixBus、RegioJetなど
空港発の直行便は特に便利で、旅行者に人気があります。
タクシーや送迎サービス|快適だが割高
プライベートな移動手段を希望する場合は、空港や市内からタクシーや送迎サービスを利用することもできます。
所要時間:約1時間40分
料金目安:€145前後(約3,500 CZK)
ドア・ツー・ドアでスーツケースが多い人やグループにおすすめ
カルロヴィ・ヴァリ空港から市内へ
カルロヴィ・ヴァリには小さな地方空港「Karlovy Vary Airport(KLV)」があります。利用者は限られますが、ここから市内までは市バス8番でアクセス可能です。
所要時間:約15~20分
料金:数十コルナ程度
運行本数:1日数本(事前の時刻確認がおすすめ)
空港を利用する際は、市バスやタクシーで簡単に中心部まで移動できます。
心と身体が満たされる、癒やしの時間を
カルロヴィ・ヴァリは、美と健康、文化と自然が調和した町。プラハから気軽に訪れることができ、日常の疲れをリセットしたい人にぴったりの旅先です。チェコを訪れるなら、ぜひこの歴史ある温泉地で、特別なひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。