
海外移住すると証券口座はどうなる?国内証券会社の対応を徹底解説
海外移住を考える際、銀行口座や保険と並んで見落とされがちなのが証券口座の取り扱いです。多くの人が日本に残した資産をそのまま運用し続けたいと考えますが、実際には「非居住者」になることで利用制限や口座閉鎖のリスクが発生します。 この記事では、海外移住後の日本国内証券口座の取り扱いと、主要証券会社ごとの対応について詳しく解説します。
非居住者になると、証券口座は「保有のみ可能」が基本に
日本の税法では、1年以上海外に居住する場合は「非居住者」と見なされます。非居住者となった場合、日本国内の証券口座は原則として取引が停止され、保有資産の維持は可能でも、新規の購入や積立、特定の制度の利用は制限されます。
主な制限内容(多くの証券会社に共通)
新規の口座開設は不可(既存口座も制限付き)
株式・投資信託などの新規購入や積立投資はできない
NISAは原則停止または課税口座への移管
iDeCo(個人型確定拠出年金)は拠出停止(受給時期までは運用継続)
証券会社ごとの対応傾向(2025年時点)
種別 | 特徴 |
---|---|
ネット証券(SBI、楽天など) | 事前手続きにより、保有継続は可能。取引は停止。NISAは条件付きで継続可(楽天)または可能(SBI)。 |
大手総合証券(野村、大和、SMBC日興など) | 担当支店への届出で、より柔軟な対応。NISA・特定口座の取扱いも明確に整理されていることが多い。 |
非居住者に対応しているかどうかは証券会社ごとに異なり、「出国前の手続き」が極めて重要です。放置すると口座が凍結されたり、強制的に解約されたりする恐れがあるため、必ず事前に確認・手続きを行いましょう。
SBI証券|非居住者は取引不可だが、保有可能商品が2025年に拡大
SBI証券では、非居住者になると引き続き新規の売買や積立などの取引は不可ですが、保有自体は可能であり、2025年5月31日より保有可能な商品が拡大されました。
📌 改定のポイント(2025年5月31日~)
出国日前営業日までに所定の手続きを行った非居住者は、課税口座で以下の金融商品を継続保有できるようになりました:
国内株式(従来から保有可)
日本国債(従来から保有可)
外国株式(新たに追加)
投資信託(新たに追加)
国内債券(ユーロ円債や仕組債を除く)
ST(セキュリティ・トークン)などの一部新商品
これまでは原則として国内株式・日本国債の保有のみ認められていましたが、保有可能な資産の選択肢が大幅に広がった形です。
⚠ 注意点と制限事項
依然として非居住者は売買・積立などの新規取引は不可(ログインは可能だが操作は制限される)
保有可能商品であっても、出国先の税制や規制によっては継続保有できない場合があります
投資信託の分配金は「再投資」が不可となり、自動的に「受取」に設定されます(事前に手動変更を推奨)
✅ NISA口座の取り扱い(2025年1月から)
2025年1月以降は、NISA口座内の国内株式・外国株式・投資信託についても保有の継続が可能になりました(事前手続きが必要)
ただし、新規買付は非居住者では引き続き不可です
従来の「非居住者=口座閉鎖対象」という扱いからは変化しつつあり、保有資産の維持には柔軟性が出てきたものの、事前手続きが必須であること、取引自体はできないことには注意が必要です。
出国前にはSBI証券へ連絡し、「非居住者となる旨の届け出」と「商品別の対応可否」の確認を行っておきましょう。
楽天証券|非居住者でも保有は可能、取引は大幅に制限される
楽天証券では、海外移住により「非居住者」となった場合でも、一定の条件下で口座の継続保有が可能です。ただし、新規取引には大きな制限が課され、基本的に「保有のみ可能」「売却は限定的に可」という対応になります。
📌 継続保有が可能な商品(出国後も保有可能)
商品・サービス | 保有 | 取引 | 備考 |
---|---|---|---|
国内株式・ETF・REIT | ◯ | 売却のみ可 | 積立・貸株設定は出国前に解除が必要 |
外国株式・外国ETF | ◯ | × | 積立設定は解除が必要 |
投資信託 | ◯ | 売却のみ可 | 積立設定は解除が必要 |
債券(外国債含む) | ◯ | 売却のみ可 | 外国債券の売買は不可 |
楽天マネーファンド | ◯ | 売却のみ可 | - |
外貨建MMF | ◯ | 売却のみ可 | - |
金・銀・プラチナ | ◯ | 売却のみ可 | 積立設定は解除が必要 |
❌ 保有・取引ともに不可の商品(出国前に決済が必要)
信用取引(国内株式・外国株式)
先物取引、オプション取引(OP)
FX(外国為替証拠金取引)
バイナリーオプション
CFD(差金決済取引)
楽ラップなどの投資一任型サービス
これらの商品は非居住者になると一切保有もできないため、出国前にすべて解消する必要があります。
✅ 非居住者になる前に必要な対応
所定の届出書類の提出(海外転居届、マイナンバー確認書類など)
積立設定、信用取引等の解除・精算
常任代理人の選任(希望する場合)
└ 常任代理人を通じて通知の受領や手続きを行う体制を構築できます
なお、2024年時点では、NISA口座は非居住者となった時点で非課税適用外となり、新規買付はできません。ただし、保有中の商品の継続は可能です(非課税枠の維持とは無関係)。
⚠ 注意点
非居住者である間は取引(買付・積立・信用取引など)全般が制限されるため、資産の運用というよりも「保全」にとどまる運用になります。
楽天証券では5年以上の長期出国予定者は口座閉鎖を推奨しているため、予定滞在期間が長い場合は検討が必要です。
楽天証券は、非居住者への対応としては比較的柔軟な部類に入り、出国前に適切な手続きを行えば多くの資産をそのまま保有することが可能です。ただし、運用の自由度は大きく制限されるため、必要に応じて他の証券会社への移管や一時的な整理も視野に入れると良いでしょう。
野村證券|非居住者でも幅広く継続保有、NISAも最長5年維持可
野村證券では、海外転勤・海外赴任など「非居住者」に該当する場合でも、出国前に正しく手続きを行えば、国内株式や投資信託など幅広い商品を継続保有できる柔軟な対応が可能です。
📌 継続保有のポイント
特定口座→一般口座への切り替え
非居住者になる際、特定口座は廃止されるため、出国前営業日までに同口座内の資産は一般口座へ払い出されます。ただし、帰国時に手続きをすれば、再び特定口座へ戻すことが可能です(ただし払い出された期間中に売却した銘柄は戻せません)。NISA口座の継続保有(最長5年)
出国前日までに「非課税口座継続適用届出書」を提出すれば、一般NISA・つみたてNISAを5年以内(届受入日から年末まで)継続保有できます。なお、出国中の買付はできません 。投資信託も保有可能
国内株式・国債に加え、投資信託の継続保有にも対応しています 。常任代理人の選任
非居住者には常任代理人の選任が必要となるケースがあり、帰国後の手続きをスムーズにするためにも事前に確認しておくと安心です 。
⚠ 注意点と手続きフロー
出国前営業日までに、
特定口座廃止・一般口座払い出し
NISA継続希望の届出
マイナンバーなどの控除書類提出
出国後は
新規の売買・買付は不可(売却は可能)
帰国時には
一般口座資産の特定口座への再組入れが可能(手続き必要)
✅ メリットまとめ
多様な金融商品の継続保有が可能(株式・投信・債券など)
NISA非課税枠も最長5年間維持できる
帰国後に資産を元の口座構成に戻せる柔軟性
野村證券は、ネット証券や他の総合証券と比べても、非居住者対応において非常に充実したサポート体制を備えており、海外赴任者や移住者にとって安心感の高い選択肢と言えます。特定口座・NISA共に手続きの流れが明確で、継続保有・帰国時の対応も整っています。
大和証券|非居住者でも多様な資産を継続保有可能、NISAは基本的に課税口座へ払い出し
大和証券では、出国前の正しい手続きを行うことで、非居住者となっても口座を維持し、幅広い金融資産を継続保有できる柔軟な対応を提供しています。ただし取引や非課税制度の扱いに制限があります。
📌 継続保有の対応(非居住者期間中)
国内株式、投資信託、債券、外国証券など幅広く保有OK
出国前に支店で「特定取引を行う者の任意届出書兼異動届出書」を提出し、3ヶ月以内に海外転出先・納税者番号を届け出る必要あり 。
NISA口座
原則として非課税口座は一旦閉鎖され、上場株式等は課税口座へ払い出しされます。非課税継続の取り扱いは行っていません 。
特定口座
出国前に手続きを行えば、特定口座の残高は帰国後に簿価付きで特定口座へ再組入れ可能です。ただし、出国中に売買や入出庫があった場合は簿価引継ぎ不可 。
🛠 手続き・体制づくり
代理受領者の設定
資料の郵送や受取りのために、代理受領者(常任代理人)を指定し、本人確認書類等を提出 。
米国転出の場合
FATCA対応のため 「FATCA情報届出書」の提出が必要 。
譲渡・納税処理
多国籍資産(1億円超)を保有する場合、「国外転出時課税」が適用される可能性あり。租税条約や居住地国の規制は自己責任・自己確認となります。
⚠ 注意点と留意事項
取引自体は停止(買付・売却は可能でもオンライン取引は制限されるケースあり)。
配当金の受取方法制限
株式配当について「株式数比例配分方式」による受取りが継続可能。ただし、配当代替振込や信託銀行対応は制限される場合あり。
支店による支援が不可欠
各種届出・帰国後の再開等は、担当支店を通じた支援と連携が必要。
大和証券は、非居住者でも国内外の金融商品を多岐にわたって保有でき、特定口座・NISA資産の取り扱いも考慮された仕組みを整えています。一方で、非課税制度の継続には一定の条件を満たす必要があり、基本的には口座の閉鎖になる点には注意が必要です。
出国前には担当支店にて以下の確認・準備を推奨します:
「任意届出書兼異動届出書」「代理受領者登録」「FATCA対応届」などの必要書類一覧を確認
出国前に配当受取方法・譲渡税関連の整理
帰国時の口座再構成や取引再開プロセスについて相談
SMBC日興証券|非居住者は取引不可・口座解約原則だが、条件によって維持できる可能性あり
SMBC日興証券では、日本を出国して非居住者になる場合、原則として口座の解約が必要とされていますが、所定の手続きを行い、同社の承認を得られれば、制限付きで口座を維持できる可能性があります。
📌 継続保有の条件と制限
取引店への事前連絡と所定手続きが必須
出国前に担当支店に連絡し、申請および必要書類を提出します。承認された場合は、口座を継続可能です。取引は原則停止、資産の売却などは可
非居住者期間中は、新規売買や買付はできず、売却や出金が中心となります(要確認ですが、一般に取引制限あり)。特定口座は一般口座へ移行される可能性あり
他社と同様、非居住者化に伴い特定口座が廃止され、保有資産は一般口座扱いになるケースがあります。NISAや非課税口座は問い合わせ必須
手続きの詳細は公開されていませんが、出国前までに所定の手続きを行い、同社の承認が得られた場合は、制限の範囲内で、出国後もNISA口座内での残高は引き続き非課税で保有可能です。手続きの詳細は支店に問い合わせる必要があります。
🛠 手続きの流れ(想定)
口座担当支店へ連絡し、海外転居予定と非居住者への切替希望を伝える
所定の届出書類(海外転出届等)を提出
SMBC日興証券が承認した場合に限り、口座継続可能(取引制限付き)
非居住者期間中は売却・出金などに対応、買付や積立は不可
帰国後に再度連絡し、口座を復帰させる手続きを行う
⚠ 注意点
非居住者が新規取引を行った場合、法律・規制に抵触する恐れがあるため、SMBCでは厳しい制限を設けています。
事前申請せず放置した場合、口座解約を求められる可能性が高いです。
海外現地支店等との連携ではなく、日本の取り扱いであるため、口座開設・維持には日本国内居住が前提となります 。
SMBC日興証券は、野村證券や大和証券と比較すると対応はやや保守的ですが、適切な申請と支店承認があれば非居住者でも口座を維持できる可能性はあります。出国前に必ず支店へ相談し、書類提出および承認を得ることを強くおすすめします。
まとめ|出国前に対策すれば、資産を守れる
海外移住後も日本の証券口座を活用したいと考えているなら、出国前の準備が何より重要です。証券会社ごとの対応を事前に調べ、必要であれば証券口座の切り替えや、非居住者手続きの実施を検討しましょう。
口座の凍結や予期せぬ閉鎖を避けるためにも、以下のステップが推奨されます:
移住前に現在の証券会社へ連絡
非居住者対応の有無を確認
資産の整理・移動を検討
必要書類を提出して手続きを完了
海外生活が始まってからでは対応が遅れる可能性もあるため、早め早めの行動が資産を守るカギとなります。